楽器屋さんの裏事情 

バイオリンにしてもチェロにしても弦楽器ってバカみたいに高い。これだけ高いんだから、コンディション抜群、来歴のしれないもの売ってる店なんて犯罪同然でしょ?

 

私も、たぶん知らなかったらそう思います。

 

 

今日は、なぜ、100万円のコンディション抜群来歴のしれたチェロがまずないのか書いてみたいと思います。

 

この写真のチェロは5000ユーロでここで売っています。100年くらい前のドイツの楽器です。

 

ヨーロッパでもこういったチェロはとても少なくなりました。写真をよく見るとわかりますが、お世辞にも完ぺきとは言えない修理がしてあります。

 

日本で売ったら200万くらいしてもおかしくないと思います。

 

200万でこんなひどい修理がしてあるチェロを売ってるなんてひどい!と思いますか?

 

このチェロまともに修理しなおしたら修理代100万くらいかもっとかかります。仕入れと修理代を足したら販売する代金より高いです。

だから、このままです。別にこれでまた割れが開いてくるとかは心配しなくて大丈夫です。かなりきちんとついているので。ただ、美しくはないです。

 

それにしても200万は高すぎると思いますか?

私も200万はちょっと高めとは思います。私の感覚だと150万くらいかなあ、という感じ。

 

150万でもこんな修理跡のある楽器を売ってるなんて詐欺と思いますか?もし思うなら、買わないことです。音がいいから買ったけど修理跡があったとかもし思うなら、初めからやめておくに限ります。

 

それでも高いですか?

まず、送料。1000ユーロくらいかかります。

もし、買い付けにヨーロッパまで来れば、50万以下で来るのはかなり厳しいでしょう。

日本の店の家賃。月に50万くらいでしょうか?

保険代。

もし、楽器屋に行ってコーヒーの一杯も出てくるならコーヒーを出すためにまつわるカップ台から、豆代、コーヒーメーカー代も必要ですね。

まさか、チェロを試すのに立ってというわけには行きませんから、椅子も必要です。

楽器買ったらケースも必要だけど、5色の中から選びたい?じゃあ、ケースも最低5本は在庫しないと。あ、そのためには40万円かかる!

そして、もし、数か月後に問題があって訪ねてきたら無償でアフターサービスも提供しないといけません。

 

仕入れと売り上げの差額は基本、経費で消えます。もし、消えないなら、楽器屋さんみんなお金持ちです。私の知る限り、同業でリッチな人はアパート持ってたり、昔かった株が大化けしてたりで、楽器の修理や販売だけでお金持ちになった人はほとんど知りません。中には、世界に名だたるディーラーになったり鑑定家になって財を築いた人もいますけど、そんな人でも秘書は銀行の取り立てが来た時の言い訳をくじで探すなんてこともあります。普通の楽器屋は普通のサラリーマン程度のお金を受け取るためにかなりのリスクをとって営業しています。

 

ストラドクラスは世界共通のお値段ですが、安くなればなるほどローカルな値段が出ます。オランダでは、チューリップ50本1000円しませんが、日本だったら10倍です。でも、オランダでは10分の1の値段だ。この花屋は詐欺だとは思いませんよね。

 

残念ながら、楽器で世界で共通価格に行くのは一般人には関係ないクラスの楽器です。でもそれは、楽器屋が暴利をむさぼっているからではなくて、お客様が望むもの、こぎれいな店舗であったり、アフターサービスできる職人であったり、付属品であったりを含めるための経費です。安売り店がないのは、楽器屋の体質ではなく、経営努力で消せない壁があるからです。

 

そして、多くの楽器屋さんの対応がちょっと微妙だったりするのは、お客様のこんなに高いんだからちゃんとしたもの出してよ!という要求に多くの楽器屋がそういわれてもその値段じゃ無理、という葛藤があったりするのじゃないかなあ、なんて思ったりします。

私は、その予算じゃ無理って言いますが、やっぱりそのあとこんなに高額でと延々といろいろ言われたらやっぱりいい気持ちはしません。そして、言ってくる人は必ずいます。

 

日本も若手の店が増えてきました。この先いろいろ変わっていくと思います。店を育てるのはお客様です。お客様が楽器屋とともに文化の担い手という意識を持っていただければこの先いい方向に行くのではないかなあ、と思います。

 

 

 

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